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ユング理論は人によって評価が大きく分かれます

ユングの全容について書くと長くなってしまうので、ここではご質問の内容に従い、「集合的無意識」に絞ることにします。今では当たり前のものとなっている人間の無意識というものは、フロイトが20世紀初頭に発見した概念であり、それは画期的なものでした。フロイトはこの無意識が最も端的に表われるのが夢の中においてであると考え、代表作である『夢判断』を著したのです。その中で鍵となったのが、「象徴」、つまりシンボルでした。たとえば、とがった棒状のものならば、男性の象徴であるといったように。そしてフロイトは、実際の精神分析の治療の現場において、この無意識を意識化していくことが、即ち患者の心の傷を治癒していくことになると考えたのです。要するにフロイトは、無意識とはあくまで個人の体験を反映したイメージだと考えました。
一方、ユングはそのようなフロイトの理論を踏まえた上で、無意識にはまた別の側面があるという結論に達したのです。具体的にいうと、集団や民族、人類の心に普遍的な、共通する無意識のようなものがあると考えました。これがいわゆる集合的無意識です。この集合的無意識という概念が生まれたのは、ユングが神話や宗教に強い関心を抱き、研究していたことと大きな関係があると言われています。ユングによるこの集合的無意識の概念は、心理学の分野にとどまらず、その後の民俗学や社会人類学などにも多大な影響を与えました。しかしその一方で、「オカルト的」「実証性にとぼしい」などと、さまざまな批判を受けることにもなったのです。集合的無意識を意味があるものと捉えるか、もしくは単なる誇大妄想的なフィクションと見なすかは個人個人の考えによると思います。ただユングが、少なくともフロイトと比較した場合に、人知を超えた存在、能力に惹かれていたことは間違いないといえるでしょう。その意味では、現代においてユングの理論を体現している存在は霊能者であるというような言い方もできるかもしれません。ユングによれば、集合的無意識の「力」は時間も空間も超越しており、そこには過去だけではなく、未来の情報も含まれていると言っているのですから。日本でいえば、既にこの世に存在しない死者と対話できたり、来るべき未来のことを予知できたりするイタコやユタのような存在こそが、ユングの考えた集合的無意識を具現化した、特権的形象ではないかと思います。

集合的無意識とは複数の人間が同じ「夢」を見ること

周知の通り、ユングはフロイトに師事して精神分析家となりました。
そしてユング独自の理論というのは、フロイトから大きな影響を受けつつも、
同時にフロイトと袂を分かつようになってから完成されていったのです。
ですから、フロイトとユングとの差異を示せば、ユングの精神分析理論の特徴が明確になると思います。
簡単に言うと、フロイトにとっての精神分析とは、あくまで精神科医と患者との間で行なわれる１対１のものでした。
対話やカウンセリングを通して、精神科医が少しずつ患者の無意識を意識化していくことで、その患者が抱えている心の傷や問題点をあぶり出していくという行為です。そしてそういった治療の過程で重要な要素となったのが、患者の見る夢でした。
ユングもフロイトと同様にそのような臨床的な治療を重視しながらも、同時に理論を拡大させ、独自の論を展開するようになっていったのです。その最たるものが「集合的無意識」です。この集合的無意識というのは、複数の人間が同じ無意識（夢）を共有しているのだという仮説に基づくものであり、ユングは宗教や神話を参照（手掛かりに）しながらこの集合的無意識を探究していきました。要するに、神話や宗教というものは、特定の民族や集団、あるいは人類普遍の無意識を意識化＝イメージ（表象）化したものであるというわけです。ユングはこのことを、例えばまったく赤の他人である人間同士が極めてよく似た内容の夢を見るという事実や、接点のない国家の間に、ある共通した神話が存在するといった事柄から研究を進め、証明しようと試みたのです。
当時は画期的な発見とされたこの「集合的無意識」理論ですが、超越論的で実証不可能なことから、徐々に精神分析のメインストリームからは外れていき、現在では、少なくとも医学的にはあまり重視されなくなっているというのが実情です。